2011年1月7日金曜日

寓話

島がある。

島民はそれぞれがわずかだが仕事を持っている。

いくばくかのお金を出し合う。

島は高齢化している。

島に残った数人の子供達が無邪気に海岸線で遊んでいる。

今までこの島を守ってきた島民は高齢化を迎え、自分でご飯を食べることもままならなくなったものもいる。

島民はなけなしのお金を出し合って、その金をじっと見つめながら浜辺の小屋で相談している。最後の金である。

このお金で何を買おうか。

島民の一人は

「今まで島を支えてきたあの寝たきりになったじい様、ばあ様に使ってやろう。そもそもこの金ができたのも、彼らががんばってくれたからだ」

島民の一人は言った。

「そうだそうだ、使ってやろう」

もう一人の島民が言った。

「じゃあ、おら達が年老いた時は、誰が出してくれるんべや」

島に、仕事はもうほとんどなかった。

海でとれる魚も、少し離れた島で大量養殖が成功し、だれも買ってはくれない。

子供たちの笑い声が遠くで響いている。島には満足な教材も教師も学校もなかった。

島民の一人が言った。

「船を買ってやろう。それで子供たちを本島に連れて行ってやって勉強させてやろう」

皆顔を見合わせた。

「子供たちのために。未来のために」

島民の一人が怒りをあらわに叫んだ。

「そんなことしたら、じい様ばあ様に食わせる飯すら買えなくなる。見殺しにする気か」

答えは出なかった。

「どっちもは、使えねえ。どちらかだけだ」

島民は最後に言った。

「じい様ばあ様に聞いてみよう」

 島民はみんなで一軒一軒家を回って意見を聞いた。

話しすらできない、胃に穴をあけたばあ様の家も訪ねた。

「穴からいれる栄養剤がなければ、ばあさまは死んでしまう。船を買うわけにはいかねえ」

嫁が泣きながら言った。

島民は元村長のじい様のところに行った。

「わしはもう十分生きた。自分のことは自分でなんとかする。できなければそれはそれでいい。子供に使ってやれ」

次に島民が訪れたのは、漁の最中海に落ち両足を切断する大けがを負った島民のところだった。

「俺は働けない。体が元気ならなんでもする。でもできんのだ。俺にこの島でできる仕事はないか」

 みな無言だった。

「今みなからの援助がなくなれば、俺は餓死だ。それは、つらい。すまん」

島民はまたみんなで集まった。

考え続けた。

考え続けた。

夜が明けた。

いつしか子供の笑い声がなくなった。


こんな寓話を一つ。



 
 
 
 
 
 
 
 
 

2 件のコメント:

kayaker さんのコメント...

船を手に入れて、
漕ぎ出せ!
ってコトね。



本年もよろしくお願い申し上げます。

glico さんのコメント...

あけましておめでとうございます。

あくまで寓話ということで。


いよいよ2011年が始まりました。今年もよろしくお願い申し上げます。